お盆やお彼岸などにお墓参りへ行く方は多いと思います。
ただ昔からの習慣で続けている場合などは、その手順などについてあらためて考える機会はあまりないかもしれません。
今回は、お墓参りの基本と作法をあらためて確認します。
普段何気なく行っていることに再度関心を持ってみることで、新しい発見やご供養の気持ちをあらたにすることができるかもしれません。
お墓参りへ行く理由をあらためて考える
お墓参りへ行く理由としてまず挙げられるのは「ご先祖様への感謝の気持ちを伝えるため」です。
「私たちが日々平穏無事で生きていられるのは、ご先祖様がいつも見守ってくれているから」という考え方がその元となっています。
いつも見守ってくれているご先祖様に対し、感謝の気持ちを込めて、お墓の掃除をする。常日頃の感謝の気持ちを込めて墓前で手を合わせる。家族そろって元気な顔を見せる。それがお墓参りへ行く理由の1つではないでしょうか。
つまり、お墓参りとは「ご先祖様と子孫が“しあわせの交換”をする」ことと言えます。
子孫がご先祖様に“感謝の気持ち”を伝え、ご先祖さまが“子孫のしあわせ”を守る…
お墓は“しあわせのシンボル”と呼ぶべき存在なのです。
そして理由はもう1つあります。それは故人の供養です。
故人の死後の平安を祈り、亡くなった事にあらためて向き合って、自分自身の人生を見つめ直す。亡き故人との絆を感じることは、残された人にとって心の支えとなるものです。
お墓参りの持ち物
ここからはお墓参りの作法などについてお話していきます。
まずは持ち物です。お墓参りの持ち物は以下の通りです。
1.線香
ひと束あれば大人数でも足りるでしょう。自宅で長く保管していたものを使う場合はきちんと火がつくかどうか確認を忘れずに。
なお線香を供える理由には諸説あります。
・古代インドの仏教経典に書かれた「香りは死者の食べ物であり、生前善い行いをしてきた死者は良い香りを食べられる」という話から、故人の極楽浄土行きを願い、良い香りのお線香を供える
・お墓参りをする者の心身を清め、お線香の香りに乗せて故人への思いを伝える
2.ろうそく
小さいサイズのものを1~2本用意。こちらも自宅で長く保管していたものを使う場合はきちんと火がつくかどうか確認しましょう。
ろうそくの灯りには、火によって周囲の不浄を浄める目的と、煩悩の闇に光を当てる目的があります。
3.数珠
宗派による数珠と持ち方の違いは、この記事の後半で説明いたします。
4.マッチ、ライター、チャッカマンなどの火をつける道具
5.仏花
菊などを中心とした細めの花束を1対(2束)用意。
6.供物
果物や菓子など故人の好きだったものを用意。
7.湯呑
水やお茶をお供えするためのもの。
8.ビニール袋
ろうそくや供物を入れて持ち帰るためのビニール袋です。
9.手桶&柄杓
お墓などに水をかける際に使います。
10.雑巾やスポンジ
墓石を拭き掃除する際に使います。
たわしは墓石に傷がつくので使わないでおきましょう。
11.その他の掃除用具
細かいところを掃除するための歯ブラシ、ほうき&ちりとり、剪定はさみ、軍手など
12.季節によって必要なもの
夏場は虫が多く発生しがちなので、虫よけスプレーなどがあると便利です。
お墓参りの作法
①挨拶/合掌
まずはお墓にむかい、数珠を手にかけて合掌します。
なお、数珠やその持ち方は宗派によって違いがあります。
<臨済宗>
臨済宗の正式な数珠は、108の玉が連なった「看経念珠(かんきんねんじゅ)」です。108の玉には、人間が持つ108種類の煩悩を解消する力があると考えられています。看経念珠の他には、振分念珠と呼ばれる長い数珠を使うことも可能です。
合掌するとき以外は、看経念珠を二重にして左の手首にかけます。 合掌する際は、数珠を二重にして左手の親指と人差指の間にかけてください。房が下にくるようにかけ、右手を添えて合掌礼拝して「南無釈迦牟尼仏」と唱えます。
<曹洞宗>
曹洞宗の正式な数珠は、玉が108個ある「本連(ほんれん)」です。108つあるといわれる人の煩悩を断ちきるために、一心に仏・法・僧の三宝(さんぼう)の名(みょう)をとなえながら、108の数珠を繰り数えれば、仏さまのご加護がいただけるとされています。
合掌をする際は、数珠を左手の四指にかけてください。房を下にし、一環で長いものは二環にしてかけて、合掌します。
<黄檗宗>
108個の玉と親玉を繋いだシンプルな看経念珠が正式なものとなります。臨済宗のところでも看経念珠が出てきましたが、黄檗宗で用いられるものは、108個の玉と2個の親玉で作られ、10個ごとの記子(きし)がつけられているのが特徴です。
看経数珠を用いて合掌する際は、一重の大きな輪をひねって二重にし、左手の親指と人差し指のあいだに掛けてください。房は下に垂らすようにして、数珠を両手ではさむようにして合掌します。
<日蓮宗>
日蓮宗には、僧侶が使う装束(しょうぞく)数珠と、一般用の勤行(ごんぎょう)数珠という2種類の数珠があります。特徴は房が丸く(菊房・玉房)なっているところです。
また、房の長さは普通の長さの短房、少し長い中房、長い長房があり、中房と長房は、ご祈祷をする僧侶が用いる数珠となっています。
「珠」の材料は、香木・梅・黒檀・菩提樹・水晶・真珠・珊瑚・象牙・石など多種多様ですが、最上の珠と昔からいわれているのは白水晶です。
合掌する際は、数珠を2重にして、左手の親指と人差し指のあいだに掛け、房を下に垂らします。そして、数珠を掛けた左手に右手を合わせ、合掌します。
題目を唱える場合は、数珠の房が3本出ている方を左手の中指に掛け、1回ひねってから、房が2本出ている方を右手の中指に掛けてください。房は手の外側に垂らすようにし、そのまま手を合わせて題目を唱えます。
<天台宗>
よく見かける丸い玉を連ねた数珠ではなく、正式には楕円形のかたちをした平たい数珠を用います。一般的には、108個の「主玉」と4つの「天玉」、そして1つの「親玉」が連なっており、親玉からさらに紐が伸び、その紐には「弟子玉」が連なっています。
親指と人差し指の間にひっかけるようにして持ち、弟子玉が連なっている部分を下側に垂らして合掌礼拝します。
<真言宗>
振分数珠と呼ばれる、二重にして使用するほどの長さが特徴です。108個ある主玉に親玉が2個、四天玉が4個、弟子玉20個や浄名玉1個などがつき、両端に梵天房が2本ずつある数珠が、正式なものとして広く使われています。持ち方は、房を外に出して両手の中指にまっすぐに架け渡し、そのまま合掌します。頻繁に両手をこすり合わせてジャラジャラと音を立てるのも真言宗の特徴です。108個の玉を鳴らす事で108個の煩悩を払う、という意味があります。使わない時は二重にして手のひらにかけ、親指で押さえるようにしておきます。
<浄土宗>
男性用が「三万浄土」、女性用が「六万浄土」と呼ばれています。手にかけられる程度の大きさの数珠であり、輪が2連になっています。片方から房が2本出ており、日々唱える念仏を数えられる構造を持っているのが特徴です。名前の由来は、念仏を唱えるとき、決められた形式で数珠の玉数に沿って数えていくと、男性用は32,400回、女性用は64,800回を唱えることができるようになっているためです。
<浄土真宗>
浄土真宗の念珠は数取りができないように、房が「蓮如(れんにょ)結び」になっています。蝶々が羽を開いた様に見える結びが特徴です。
浄土真宗の数珠は門徒数珠と呼び、本来は長い一連の念珠を二重にして用います。主玉が108個、親玉が2個、四天玉が4個の構成となっていますが、男性は一連の数珠に紐房を付けたものが主流です。
なお二連の数珠の房は、本願寺派(西)では頭付撚房が、大谷派(東)では切房が主に用いられます。
②お墓と、お墓の周囲の掃除
お墓の周りに生えている草を抜き、庭木や生垣があれば剪定ばさみで手入れをします。
枯葉やゴミが落ちていれば、ほうきで掃きましょう。
墓石は雑巾やスポンジで水拭きをし、花立てや線香立てなど、取り外しできる付属品も手洗いします。
③お供え/お参り
仏花は水を入れた花立てに、供物は半紙(敷き紙)を敷いた供物台にそれぞれ供えます。
お参りは、故人と縁の深い方から、もしくは年長者からの順番で行います。
お線香は束にしてお供えするのが一般的ですが、宗派や地域により異なり場合があります。
<本数の違い>
・曹洞宗や日蓮宗は1本ずつ
・浄土宗は2本
・天台宗や真言宗は3本
<供え方の違い>
・お線香を寝かせて供える
(燃えている方を左側に置くことが一般的ですが、異なる場合もあります)
・香炉に立てて供える
<誰がお供えするか>
・束のまま火をつけたお線香を複数人で分けてお供えする
・最初にお参りする方が代表してお供えする
④帰り支度
仏教では「汚れた人間の息を仏様に吹きかけてはいけない」という考えがあります。そのため、お墓や仏壇などで線香やろうそくの火に息を吹きかけて消すのはマナー違反です。手で仰ぐか、専用の道具で火を消すようにしてください。
お墓に供えたお線香は、最後まで燃やしきります。
そして、お墓参りをした後は供物を持ち帰ることがマナーとされ、霊園によっては供物の持ち帰りが規定されています。なぜなら、供物を目当にカラスや猫がうろつく可能性があるからです。
まとめ
お墓参りの基本や作法には、各宗派や各地方によって違いがあるものです。しかしながら、「ご先祖様への感謝」や「故人の供養」といった根底に流れる想いは、共通しています。
お墓参りの作法について家族や親族間であらかじめ確認しておくと、間違いはないでしょう。また、お墓参りを通じて家族・親族間の絆を再確認していただければ、ご先祖様や故人もきっと喜ばれるに違いありません。